標準治療より「最適治療」

 医学的に「標準治療」とされている治療が、必ずしもその患者様ご本人にとっての「最適な治療」とは限らないというケースに時々遭遇します。
 先日いらした方は、40代前半なのに月経がピッタリ止まってしまったとのことで受診されました。採血をしてみると、ホルモンの値は完全に閉経している状態です。早発閉経の定義には当てはまりませんが、まだ閉経するにはちょっと早すぎるご年齢です。通常であれば、数年間のホルモン補充療法が必要ですよ、とご説明するところなのですが。

 「月経が来なくなって体調不良はありますか?」と伺ったところ、「いえ、むしろ生理が来なくなってほっとしたというか・・・」とおっしゃったので、なんとな~く引っかかったんですよね。
 もしかしたら、ホルモン補充療法で再度月経様の出血が来ることは、ご本人にとって嬉しくないことなのかも、と思ったので、少し突っ込んで聞いてみたところ、なぜ「ほっとした」のかが分かりました。

 その方は、お子様に関しておつらい経験をされて、再度妊娠を目指そうかどうか迷っていらしたんです。閉経の状態である=もう妊娠はできない、と聞いて「これで妊娠を目指そうと思わなくていいんだ」とほっとしたのだそうです。「神様が幕を引いてくれたんだと思います」とおっしゃっていたので、おそらくご自身で妊娠を目指すことを「やめる」必要がなくなって安心なさったのだと思います。
 標準的な治療は、数年間ホルモン補充療法を行うことであることや、ホルモン補充を行わない場合のデメリットや、閉経から数年たってホルモン補充を開始した場合のデメリットをご説明したところ、「気持ちが落ち着くまでは生理が来ない状態のままでいたい」とのこと。 
 教科書的な治療選択からは外れますが、骨密度検査や脂質代謝の検査をきちんと受けていただくことを条件に、何もせず様子を見ることになりました。

 できれば1年くらいでお気持ちに整理がついて、ホルモン補充療法を受けていただけるといいのですが・・・高齢女性の寝たきりの原因の多くは骨密度の低下、つまり骨折なので、「元気に年をとる」ためには骨密度を保っておくことはとっても大切なのです。そして、骨代謝には女性ホルモンが大きな役割を果たしているのです。
 でも、少なくとも現段階では、ご本人にとって最適な治療は「月経が来ないままにする」ことなんですよね。