「高齢」の呪縛は誰がかけたもの?

  今日は自宅のすぐ近くで学会が開催されているので、受けたいセクションだけをちょこっと受講してきました。自転車で会場と自宅を往復できてしまうので、助かりますね。
 受けてきたのは「NIPTについて今後の課題を議論する」というパネルディスカッションだったのですが、改めて出生前診断や、高齢妊娠について考えたくなる内容でした。NIPTとは無侵襲的出生前遺伝学的検査(Noninvasive prenatal genetic testing)の略で、母体の血液を採取することで、そこにわずかに含まれている胎児の染色体も一緒に採取して異常がないかどうかを調べるという検査です。正確には「胎児の染色体」ではなくて「胎盤」の染色体なので、胎児自身の体に流れている血液の成分が、母体の採血で採取できるわけではありません。

 以前から行われていた「クワトロテスト」や「トリプルマーカー」と比べて検査の精度が高いことから、「新型出生前診断」として話題になったこともありました。現在は、検査を受けられる対象や、検査を行える施設を限定した「臨床研究」という位置づけで、検査の機会が提供されています。要するに、誰でもどこでも受けていい検査ではないですよ、という位置づけなのです。
 NIPTの臨床研究については、「NIPTコンソーシアム」のページをご参照ください。

 シンポジウムの中では、主に検査の精度について、つまり「疑陽性」や「疑陰性」や「判定不能」の結果が出たケースについて発表されていましたが、パネルディスカッションでの議論の中心は「限定的な検査にすべきか広く誰もが受けられる検査にすべきか」といった内容でした。特に印象に残ったのは、「『偽陽性』が出た場合、本来は正常に産まれるはずの命が失われることになる」という指摘でした。検査の精度的に、「本当は異常がないのに陽性と出る」割合がゼロではありません。たとえ頻度は低くても、「間違って」染色体異常ありという結果が出る場合もあるのです。検査を受けて「異常あり」の結果を受けた方の90%以上が妊娠を中断するという選択をなさっていました。つまり、異常があることが分かったけれど妊娠を継続するという選択をする人はほとんどいないのです。だからこそ、「異常がないのに陽性」と出てしまうことは大きな問題と言えるでしょう。
 検査を受けた人の「なぜ検査を受けたか」の理由の9割以上は「高齢妊娠だから」というものでした。年齢とともに染色体異常のリスクは上がります。なので、染色体異常がないかどうかをあらかじめ調べておきたいという理由で検査を受けるという方がいらっしゃいます。検査を受けた方がいいかどうかは、事前の遺伝カウンセリングをきちんと受けて、「万が一異常が出た場合にどうするのか」も含めて夫婦でしっかり話し合ってから個々に決めることです。医師も含めて、当事者以外が「受けた方がいい」「受けない方がいい」ということを示すべきではありません。検査を受けることによって「知らないでいる権利」を一部放棄することになる、ということも含めて、当事者が選択することなのだと思います。

 ただ、検査理由のほとんどが「高齢妊娠」であること、そして、年齢を理由に受けた人の9割は正常であるという結果であることを合わせて考えると、「年齢」の捉え方を考え直すべきではないのかと改めて感じました。
 高齢妊娠した方や、高齢で妊娠を目指す方は、ぜひ下記の質問の答えをしっかり導いてほしいと思います。

  「あなたはなぜその年齢まで妊娠しないという選択をしてきたのですか?」

 人によっては「仕事に夢中になっていたら40過ぎていた」「たまたまパートナーが見つからなかった」「病気の治療をしていたらこの年になった」「今まで結婚する気にならなかった」「なんとなくこの年になってしまった」などなど、どちらかというと積極的理由で妊娠する年齢を引き上げたわけではないという方もいらっしゃるでしょう。というか、「好きでこの年になったんじゃないわよ」という方がほとんどかもしれません。 
 それでもあえて、この質問に答えることに意味があるのです。「なぜわざわざ今の年齢で妊娠した(妊娠を目指した)か?」です。

 高齢であることを気にする方のほとんどが、「この年まで妊娠しなかった」ことに罪悪感や後悔など、何らかのネガティブな解釈を持っていることがほとんどです。
 妊娠を目指したい理由を書いてもらっても「年も年なので・・・」という方は非常に多くいらっしゃいます。年齢を気にして出生前診断を受ける場合も、ベースは同じ思考回路が働いている可能性が高いのです。

 私たち産婦人科医にとっては、年齢と妊娠率や、高齢妊娠のリスクについて正確な情報を提供することも大切なお仕事のひとつです。なので、年齢について色々語ってしまいますが、それらの情報は10代や20代の方たちに「今のうちに知っておいて!今なら間に合うから!」ということで伝えているのです。高齢妊娠の方や高齢で妊娠を目指す方に対して「その年齢まで妊娠しなかったこと」を後悔させたりそれを責めたりしているわけではありません。
 高齢妊娠だから何かあったらどうしよう・・・という思いで出生前検査を検討するなら、検査をしない方がよいと言えます。今の年齢まで妊娠をしないという選択をした理由をきちんと考え、「これからの妊婦生活をより安心できるものにしたいから」という理由で受けるのなら、検査の意味があるでしょう。

 あなたはまだ「年齢の呪縛」を大事に持ち続けますか?それとも、上記の質問にサクッと答えて、さっさと手放しますか?
 
 

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