更年期のホルモン補充療法(HRT)の選び方|貼り薬・ジェル・飲み薬
更年期のHRTは、エストロゲンの「量」だけでなく、飲む・貼る・塗るという投与経路、子宮の有無、黄体ホルモンの種類と使い方で選びます。貼り薬・ジェルなどの経皮エストラジオールは、経口剤より静脈血栓症リスクが低いと考えられ、血栓症リスク因子がある方では第一選択として検討されます。ただし、どの方法でもリスクが完全にゼロになるわけではありません。[1][2]
HRTとは
ホルモン補充療法(HRT)は、更年期に低下・変動するエストロゲンを補い、ほてり、発汗、寝汗、腟の乾燥などを改善する治療です。血管運動神経症状に最も効果の高い治療で、骨量減少を抑える効果もあります。[3]
HRTは避妊薬ではありません。閉経前で妊娠の可能性がある場合は、避妊を別に考える必要があります。
最初に決めること:子宮があるか
| 子宮の状態 | 基本的なHRT | 理由 |
|---|---|---|
| 子宮がある | エストロゲン+黄体ホルモン | 黄体ホルモンで子宮内膜増殖症・子宮体がんを防ぐため |
| 子宮を摘出している | 原則としてエストロゲン単独 | 保護すべき子宮内膜がないため |
子宮内膜症の既往、子宮体がん治療後などでは個別の判断が必要です。子宮がある方が自己判断で黄体ホルモンだけを中止すると、子宮内膜を守れなくなるため避けてください。
エストロゲン:貼り薬・ジェル・飲み薬の違い
| 投与経路 | 特徴 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 貼り薬 | 皮膚から吸収。肝臓の初回通過を避け、経口剤より血栓症リスクが低いと考えられる。交換頻度は製剤による。 | かぶれ、はがれ、貼付部位のローテーションが必要。 |
| ジェル | 皮膚に塗って吸収。経皮剤として血栓症リスクの面で利点がある。 | 毎日塗布する製剤が多い。乾くまで衣服・他者との接触に注意。 |
| 飲み薬 | 使用しやすく、皮膚トラブルがない。 | 肝臓の初回通過があり、経皮剤より静脈血栓症リスクが高い。 |
| 腟剤 | 腟乾燥・性交痛など局所症状を中心に治療。 | 全身のほてりを治す目的の製剤ではない。出血・感染などを確認。 |
経皮エストロゲンは血栓症リスクが低い?
飲み薬のエストロゲンは腸から吸収された後に肝臓を通り、凝固系に影響します。貼り薬やジェルは皮膚から直接吸収され、肝臓の初回通過を避けるため、観察研究や専門学会の指針では、経口剤より静脈血栓症リスクが低いと考えられています。[2]
日本産婦人科医会も、肥満、加齢、脂質異常症、高血圧、糖尿病、慢性炎症性疾患、片頭痛などの血栓症リスクや胆のう・肝臓疾患がある場合、経皮エストラジオールを第一選択としています。[1]
ただし、「貼り薬なら血栓症は絶対に起こらない」という意味ではありません。血栓症の既往、喫煙、肥満、長期不動、手術予定、遺伝的素因などを確認し、リスクが高い場合はHRT以外を含めて検討します。
黄体ホルモンの選び方
子宮がある方では、全身用エストロゲンに十分な黄体ホルモンを組み合わせる必要があります。黄体ホルモンには、天然型(微粒子化)プロゲステロンと合成黄体ホルモンがあり、眠気、出血パターン、代謝・血栓・乳房への影響などが異なります。
| 種類 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| 天然型(微粒子化)プロゲステロン | 体内のプロゲステロンと同じ構造。観察研究では一部の合成黄体ホルモンより乳がん・血栓症リスクが低い可能性。 | 眠気・めまいが出ることがある。乳がんリスクがゼロではなく、長期データは限定的。 |
| 合成黄体ホルモン | 複数の種類があり、子宮内膜保護作用、出血、代謝への影響が異なる。 | 製剤・用量・期間により乳房や血栓への影響が異なる。 |
天然型プロゲステロンが全員に最適とは限りません。眠気、出血、費用、併存疾患、飲み方を踏まえて選びます。
周期的投与と連続投与
| 方法 | 使い方の概要 | 出血の特徴 |
|---|---|---|
| 周期的併用法 | エストロゲンを継続し、黄体ホルモンを一定期間併用する。 | 黄体ホルモン終了後に予定された消退出血が起こることがある。閉経移行期や閉経後早期に選ぶことがある。 |
| 持続的併用法 | エストロゲンと黄体ホルモンを原則毎日併用する。 | 最初は不正出血が起こることがあるが、その後無出血を目指す。通常は閉経後に選ぶ。 |
月経の状態、閉経からの期間、出血への希望によって選びます。自己判断で黄体ホルモンの日数を減らさないでください。
HRTと乳がんリスク
乳がんへの影響は一つの数字で説明できません。子宮の有無、エストロゲン単独か併用療法か、黄体ホルモンの種類、使用期間、もともとの乳がんリスクによって異なります。
- 子宮がある方のエストロゲン+黄体ホルモン併用療法では、使用期間とともに乳がんリスクがわずかに上がる可能性があります。
- 天然型(微粒子化)プロゲステロンは、一部の合成黄体ホルモンより乳がんリスクが低い可能性が観察研究で示されています。
- 天然型でも乳がんリスクがゼロになるわけではなく、5年を超える長期使用の根拠は限定的です。[4]
- 乳がん検診を推奨される間隔で受け、乳房の変化があれば受診します。
過去または現在の乳がんがある方は、全身HRTを通常は使用せず、がん治療医と連携して非ホルモン治療や局所症状への対応を検討します。
HRTを使用できない・慎重に判断する主な状態
適否は製剤の電子添文、病歴、治療目的を確認して個別に判断します。主な例は次のとおりです。
- 診断されていない原因不明の性器出血
- 乳がんやエストロゲン依存性悪性腫瘍の既往・治療中
- 静脈血栓塞栓症、脳卒中、心筋梗塞などの既往・活動性疾患
- 重い肝疾患
- 妊娠または妊娠の可能性
- 製剤成分への過敏症
片頭痛、高血圧、糖尿病、脂質異常症、胆のう疾患、子宮筋腫・子宮内膜症などがあっても、一律にHRTが使えないとは限りません。投与経路・量を含めて慎重に選びます。
開始後に起こりやすい症状
- 不正出血、予定された消退出血
- 乳房の張り・痛み
- むくみ、腹部膨満感
- 頭痛
- 貼付部位のかぶれ
- 天然型プロゲステロンによる眠気・めまい
開始後の軽い症状は数か月で落ち着くことがありますが、出血量が多い、長く続く、いったん止まった後に再び出血する場合は評価が必要です。胸痛、突然の息切れ、片脚の腫れ、神経症状は緊急受診してください。
HRT中の定期確認
- 症状が改善しているか
- 出血・乳房症状・皮膚症状などの副作用
- 血圧、体重、生活習慣
- 新しい病気・手術予定・服薬の変化
- 乳がん検診・子宮頸がん検診など年齢に応じた検診
- 継続の利益とリスク、減量・中止の希望
HRTの量、方法、期間は個別化し、少なくとも定期的に見直します。年齢だけで機械的に中止するのではなく、症状と健康状態を確認して判断します。
HRTの選び方についてよくある質問
Q. 貼り薬なら血栓症になりませんか?
経口エストロゲンよりリスクは低いと考えられますが、ゼロではありません。血栓症の既往、肥満、喫煙、手術予定などを確認して選びます。
Q. 子宮があるのにエストロゲンだけを使えますか?
全身用エストロゲンを使う場合は、原則として子宮内膜保護のため黄体ホルモンが必要です。自己判断で黄体ホルモンを中止しないでください。
Q. 天然型黄体ホルモンなら乳がんリスクはありませんか?
リスクがゼロとはいえません。一部の合成黄体ホルモンより低い可能性はありますが、主に観察研究に基づき、5年を超える長期データは限定的です。
Q. HRTで太りますか?
HRTが直接大きな体重増加を起こすという明確な証拠はありません。更年期には加齢、筋肉量低下、睡眠や活動量の変化で体重が増えやすくなります。むくみを感じる場合は処方を調整します。
横浜駅近くでHRTをご相談になりたい方へ
横浜駅から徒歩6分、ポートサイド女性総合クリニック~ビバリータ~で女性医師が、子宮の有無、症状、持病、血栓症・乳がんリスク、生活上の希望を確認し、剤形と組み合わせをご提案します。
この記事の執筆・医学監修
清水なほみ 医師
日本専門医機構認定産婦人科専門医
ポートサイド女性総合クリニック~ビバリータ~ 院長
更新日・最終医学確認:2026年9月3日。本ページは一般的な医療情報であり、個別の診断・処方に代わるものではありません。
参考文献
- 日本産婦人科医会.更年期障害に対するホルモン補充療法(HRT).2025.
- British Menopause Society. BMS & WHC recommendations on HRT. Updated 2026.
- The North American Menopause Society Advisory Panel. The 2022 hormone therapy position statement. Menopause. 2022;29:767-794.
- Stute P, et al. The impact of micronized progesterone on breast cancer risk: a systematic review. Climacteric. 2018;21:111-122.
- PMDA.エストラーナテープ 医療用医薬品情報・電子添文.2025年10月改訂.
- PMDA.エフメノカプセル100mg 医療用医薬品情報・電子添文.2025年10月改訂.
- 日本産科婦人科学会・日本女性医学学会.ホルモン補充療法ガイドライン2025年度版.2025.










