卵巣のう腫・卵巣がんの治療と予防|経過観察・手術・HBOC
卵巣腫瘍の治療は、「大きさだけ」で決めるものではありません。腫瘍の見え方、増大の有無、症状、年齢、閉経前後、妊娠希望、腫瘍マーカー、悪性の可能性などを総合して、経過観察・薬物治療・手術・専門施設への紹介を選びます。
また、平均的なリスクの方に、卵巣がんを確実に予防する薬や、死亡を減らすことが確認された検診はありません。家族歴や遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の可能性がある方では、一般の方とは異なる遺伝カウンセリングとリスク低減策を検討します。[1][2]
治療方針を決めるポイント
- 超音波で単純な液体だけに見えるか、充実部分・隔壁・乳頭状部分などがあるか
- 腫瘍の大きさと、時間とともに増大しているか
- 痛み、圧迫感、腹部膨満などの症状があるか
- 初経前、妊娠可能年齢、妊娠中、閉経後のいずれか
- 妊娠希望と卵巣機能をどこまで温存する必要があるか
- 腫瘍マーカー、MRI・CTなどで悪性が疑われるか
- 卵巣がん・乳がんなどの家族歴や遺伝的リスクがあるか
同じ大きさの腫瘍でも、若い方の単純性のう胞と、閉経後に新たに見つかった充実性腫瘍では対応が異なります。自己判断で経過をみるのではなく、再診時期を決めて確認することが大切です。
経過観察でよいことがある卵巣のう腫
閉経前にみられる機能性のう胞などは、数週間から数か月で自然に小さくなることがあります。超音波で良性らしい所見で、症状がなく、悪性を疑う要素が少ない場合は、時期をあけて再度超音波検査を行います。
経過観察の間隔は、年齢、月経周期、腫瘍の種類・大きさ・変化によって異なります。「何cmなら必ず放置できる」「1年に1回でよい」と一律には決められません。強い痛みが出た場合は、予定の再診日を待たずに受診してください。
薬で治療できる卵巣のう腫
卵巣のう腫の種類によって、薬が有効な場合と、薬ではなく手術・経過観察が中心になる場合があります。
子宮内膜症性のう胞(チョコレートのう胞)
低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)、黄体ホルモン製剤などで、痛みを軽くし、病変の進行や術後再発を抑える治療を行うことがあります。ただし、薬でのう胞そのものが完全に消えるとは限りません。
手術を繰り返すと卵巣予備能が低下する可能性がある一方、腫瘍の増大、強い症状、悪性を否定しにくい所見などがあれば手術が必要になることがあります。妊娠希望がある方では、年齢、AMH、のう胞の大きさ・両側性、不妊治療の予定を含めて判断します。
その他の良性卵巣腫瘍
成熟嚢胞性奇形腫(皮様のう腫)や漿液性・粘液性腺腫などは、ホルモン剤で腫瘍をなくすことはできません。小さく症状がなければ経過観察することがありますが、増大、痛み、捻転の懸念、診断が不確かな場合には手術を検討します。
良性卵巣腫瘍の手術
主な術式には、腫瘍部分だけを取り除いて卵巣を残す卵巣腫瘍摘出術と、卵巣・卵管を含めて摘出する付属器摘出術があります。良性が強く考えられ、妊娠希望がある方では卵巣を温存する方法を優先できることがあります。
腹腔鏡手術か開腹手術かは、腫瘍の大きさ・内容、癒着、悪性の可能性、既往歴などで決まります。悪性の可能性がある腫瘍では、内容物を腹腔内に漏らさず、適切な病期診断と治療を行える体制が重要です。[3]
片側の卵巣を摘出しても、反対側の卵巣と卵管が機能していれば自然妊娠は可能です。ただし、妊娠しやすさは年齢、卵巣予備能、卵管・精子の状態などにも影響されます。
卵巣茎捻転・破裂は緊急治療になることがあります
卵巣腫瘍がねじれて血流が悪くなる卵巣茎捻転では、突然の強い下腹部痛、吐き気・嘔吐が起こることがあります。時間がたつと卵巣を温存できなくなる可能性があるため、緊急手術が必要になることがあります。
腫瘍の破裂では、急な腹痛や腹腔内出血を起こすことがあります。急激な痛み、冷や汗、ふらつき、意識が遠のく感じがある場合は、夜間・休日でも救急医療機関へ相談してください。
境界悪性卵巣腫瘍の治療
境界悪性腫瘍は、良性と浸潤性の卵巣がんの中間的な性質をもつ腫瘍です。基本は手術で、腫瘍の種類・広がり・年齢・妊娠希望に応じて術式を選びます。
妊娠を希望する方では、条件を満たせば子宮と反対側の卵巣を残す妊孕性温存手術を検討できる場合があります。ただし再発リスクや術後の定期診察が必要なため、婦人科腫瘍を専門とする施設で相談します。
卵巣がんの治療
卵巣がんが疑われる場合は、婦人科腫瘍の診断・手術・薬物療法を行える専門施設で治療します。標準治療の中心は手術と薬物療法です。[4]
手術
手術では、病理診断と病気の広がりを確認し、可能な範囲でがんを取り除きます。一般的には子宮、両側の卵巣・卵管、大網などが対象になりますが、進行度、組織型、全身状態によって術式は異なります。
ごく早期で一定の条件を満たす場合に限り、妊娠の可能性を残す手術を検討できることがあります。希望だけで適応を決めることはできないため、治療前に婦人科腫瘍専門医へ相談します。
薬物療法
白金製剤とタキサン系薬剤を中心とした化学療法が広く行われます。最初に手術をすることが難しい場合は、組織診断後に化学療法を行い、その後に手術を行うこともあります。
病期、組織型、治療効果、BRCA1/2遺伝子や相同組換え修復欠損(HRD)の検査結果などにより、PARP阻害薬や血管新生阻害薬による維持療法を検討します。治療内容は一人ひとり異なります。
治療後の経過観察
良性腫瘍でも、残した卵巣に再発したり、反対側に新たな腫瘍ができたりすることがあります。術後は病理結果を確認し、必要な診察・超音波検査の間隔を決めます。
卵巣がん・境界悪性腫瘍の治療後は、専門施設で症状の確認、内診、画像検査、腫瘍マーカーなどを組み合わせて経過をみます。通院間隔は病期、組織型、治療終了からの期間によって異なります。
卵巣がんを予防できますか?
平均的なリスクの方に、卵巣がんを確実に防ぐ方法は確立していません。禁煙、適正体重、節度ある飲酒など一般的ながん予防につながる生活習慣は大切ですが、それだけで卵巣がんを防げるわけではありません。[2]
経口避妊薬・低用量ピル
経口避妊薬の使用歴は卵巣がんの発症リスク低下と関連しますが、副作用や血栓症リスクもあり、卵巣がん予防だけを目的に全員へ勧める薬ではありません。避妊や月経困難症の治療として使う場合に、年齢・喫煙・片頭痛・血栓症リスクなどを確認して処方します。
卵管切除
一部の卵巣・卵管がんが卵管から発生すると考えられるため、良性疾患の骨盤内手術や不妊手術を受ける予定がある方に、将来のリスクを下げる目的で卵管切除を相談する考え方があります。卵巣がん予防だけのために、平均的リスクの方が新たに手術を受けることを一律に勧めるものではありません。[5]
HBOC・BRCA1/2遺伝子変異がある場合
BRCA1またはBRCA2の病的バリアントがある方は、卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの発症リスクが一般の方より高くなります。乳がん・卵巣がん・膵がん・前立腺がんなどが家系内に多い、若年発症の乳がんがある、血縁者にBRCA1/2変異が確認されている場合は、遺伝カウンセリングを検討します。
BRCA1/2変異が確認された方では、妊娠・出産の希望を終えた適切な時期に、卵巣と卵管を摘出するリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)を検討します。超音波とCA125による定期検査だけでRRSOと同等の予防効果が得られるわけではありません。手術時期、早発閉経への対応、乳がんリスクも含めて専門施設で相談します。[1]
卵巣腫瘍の治療・予防についてよくある質問
Q. 卵巣のう腫は何cmなら手術ですか?
大きさだけでは決まりません。年齢、症状、超音波所見、増大の有無、悪性の可能性、妊娠希望を合わせて判断します。
Q. ピルを飲めば卵巣のう腫は消えますか?
すべての卵巣のう腫が消えるわけではありません。子宮内膜症性のう胞では痛みや再発を抑えるために使いますが、奇形腫や腺腫を薬でなくすことはできません。
Q. 卵巣を片方取ると妊娠できませんか?
反対側の卵巣と卵管が機能していれば、自然妊娠は可能です。ただし年齢や卵巣予備能、卵管・精子の状態などにも左右されます。
Q. 卵巣がんを防ぐために卵巣を取った方がよいですか?
平均的なリスクの方に予防的な卵巣摘出を一律に勧めることはありません。手術による閉経と長期的な健康影響があります。BRCA1/2変異など高い遺伝的リスクがある方は、専門施設でRRSOを相談します。
横浜で卵巣腫瘍をご相談になりたい方へ
ポートサイド女性総合クリニック~ビバリータ~では、問診、内診、経腟または経腹超音波検査で卵巣を確認し、経過観察の必要性を判断します。
MRI・CT、手術、婦人科腫瘍専門医による診療、遺伝カウンセリングが必要な場合は、対応できる医療機関へご紹介します。突然の激しい腹痛、嘔吐、冷や汗、ふらつきがある場合は、当院の予約を待たず救急医療機関へご相談ください。
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この記事の執筆・医学監修
清水なほみ 医師
日本専門医機構認定産婦人科専門医
ポートサイド女性総合クリニック~ビバリータ~ 院長
更新日・最終医学確認:2026年10月17日。本ページは一般的な医療情報であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス.卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 予防・検診.
- 国立がん研究センター がん情報サービス.科学的根拠に基づくがん予防.
- 日本産科婦人科学会.卵巣腫瘍.
- 国立がん研究センター がん情報サービス.卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療.
- American College of Obstetricians and Gynecologists. Opportunistic Salpingectomy as a Strategy for Epithelial Ovarian Cancer Prevention.










